北海道の離島に行ったら帰れなくなった話(1)

今まで何度となく北海道に行っている私だが、夏・秋・冬しか行ったことがない。
4月のGWの日程のことを考えていたら、LCCPeach関空早朝発/深夜着の便を出したことを知って、早速予約してみた。この便を使えば、初日は8時台に新千歳に到着し、最終日は20時に新千歳を出るというプランが可能になることで、2泊3日でも3日間をまるまる使って遊べるのだ。素晴らしい。

まぁもちろん、そのためには7時に関空を出るという激しいプランになるわけであり、そのためにはよほど関空または、早朝リムジンバスの出る街に近く住んでいるか、今回の私のように朝4:30に家を出て自家用車を走らせなければならない。帰りもまた同じハードな日程になるわけで、その点にすぐに気づいて反対意見を述べてくる賢い同行者をお持ちの諸氏は、まずその人を説得するか、諦めて一人旅立たなければならないわけだが、その点うちの妻は

「春の北海道ってヨーロッパの春と同じような感じなんでしょ、いいよ〜」

とあまり深く考えていない様子で、目的地はヨーロッパと程遠い離島の「天売島」と「焼尻島」、それから「サロベツ原野」に決定した。すいません。

天売島は数km四方に野鳥が数十万羽生息する小島であり、焼尻島は羊の楽園のような場所。どっちも日本海上の絶海の孤島である。なお、今回は自転車は持って行かない。
天売島はここ→ http://goo.gl/maps/HnDnu

さて、早朝の関空Peachの第二ターミナルはメインのターミナルから遠く離れた場所にあり、これはこれで島にきた感がある。朝日が綺麗。

LCCは何もかもローコストで、乗機のときに滑走路を歩いて直接乗るのも、手荷物が増えたからといって現金会計を受け付けてくれないのも(クレジットカードじゃないとダメらしい)、到着後の手荷物受取所にトイレがなくて、待ってる間にトイレに行きたくなると割とピンチなのも(だってねぇ、戻れないし)、そもそも建物のプレハブ感が半端無いのも、コストカットしたからなのだろう。駐車場にBMW750iが止まっていたが、(たぶん)この人のように「金はあるけど、時間を有効活用したいから早朝のLCCに乗る」という人には、いちいち「やーい貧乏人」と言われてるようなこの設備はダメージがあるかもしれないね。割り切っていきましょう。

機内設備は椅子の背の布が薄く、後席の人が「どういう角度で小物入れにペットボトルをしまったか」を背中で感じられるくらいであり、機内ではトイレから帰ってきた人がいきなり通路で卒倒したりと関係ないハプニングにハラハラしたりしたが、どうにか飛行機は新千歳に着いたのだった。いや、仙台空港緊急着陸とかなったら、リカバーできないですからな。

さて、今回はレンタカーでN BOXを借りる事にした。新車である。44kmしか走ってない。ラッキー。

N BOXはご存知ホンダの軽。スペースレイアウトの妙で、車内が超広い。運転席も後席も足のびのびである。ミラーも大きく、補助ミラーx2で死角もなく、窓ガラスも広く、居住性・積載性と運転のしやすさは文句なし。ナビは挿すだけでiPodのリモートコントロールが可能であった。

しかし、新千歳を出て高速に乗ると、途端に不安を感じる。風が相当強かったせいなのだが、まっすぐ進まないのである。どうしようもなく空気抵抗になる、Cd値とか度外視?の箱型ボディ。細くて頼りないタイヤ。あーやばい。あっちへひょこひょこ、こっちへひょこひょこ。どこ行くの。

でも、必死に修正舵を当てながら周囲を見ると、周りは別になんともなってないのである。横の防音壁が切れた瞬間に風に煽られて50cmくらい横にスライドしてる車は、他にない。

エンジンはCVTのおかげで、3ATの軽トラのような狂った高回転で回ってるわけではないのが救い。とはいえ、100km/h巡航で4200rpm回っていた。坂になると6000近くまで上がるときも。ま、これはこんなもんですかね。最新のワゴンRは2400rpmぐらいまで落とせるんだっけ。それはそれでトルク無さそうだけど…

結局100km走った時の平均燃費は11km/L前後であった。空気抵抗は速度の二乗に比例するし、軽のエンジンを高回転でブン回すとそんなもんかな、という気はするが、メーカーの公証燃費が24.2km/Lなのを知っていると、失笑を禁じ得ない。

うーん、この車、ロードレーサーをそのまま積めるらしいという話を聞いて、購入の候補にもしてたのだけど、遠出の多い私は買わなくて正解だったかなぁ。
しかし、一般道に降りると、燃費は15km/Lまで回復し(それでも15だけどね)、エンジンは60km/hで2000rpmを少し超えるくらいで静かに回り、とても使い勝手がよろしい。


深川から秩父別あたりでは、白鳥の渡りに遭遇。たくさんの白鳥が、北へ帰って行く途中であり、羽を休めるものも、大編隊で飛んでいくものもいた。この季節ならではの出会いであった。

留萌では"ZION"のスープカレー。1枚入っている鶏もも肉が柔らかく、野菜も素材の味が活かされて大変美味しい。妻も大満足していた。

車は順調にオロロンラインを北上し、羽幌のフェリーターミナルに着いたのだった。

はい。羽幌から天売島まで1時間半くらいの船旅なのだが、これが大変だった。すでに高波で、私が乗る一本前の高速船は欠航。フェリーはどうにか運航するという。
しかし外洋に出てからが激しい揺れで、上の方の船室にいるのに、窓ガラスに水がかかって外が見えない。石垣から沖縄まで乗ったフェリーが今まで一番ひどかったけれど、これはその次だった。まぁ、どうにか吐かずに済んだだけよかったが…
横のおっさんはラジオ聞きながらいびきを掻いて寝ていた。ずるいっ。

這々の体で港につくと、宿のおばさんいわく、「迎えに来て見てたけど、波間に船が消えちゃうことが何度かあって、でも何秒かして船がまた見えると安心したり、みんなでハラハラしてたのよ。」
このフェリーを最後に、船は翌々日の朝まで運休したのだった。


夕方にたどり着いた民宿の窓からは、荒れた日本海が見えていた。


さぁ、10分休んでバードウォッチングに行こう。
宿を出て、人気の少ない集落を抜け、熊笹の丘を登っていくと、まもなく吹き付けてくる強風。これはやばい。
島の上は、洋上を北から吹き付けてくる強烈な風を防いでくれるものがなにもないのだ。

ちなみにこのせま〜い道が、この孤島を一周する唯一の車道である。


フキノトウとツクシが大量に顔を出しているのが春を感じさせるが、あとは熊笹と曲がりくねった背の低い木があるだけの、荒涼たる大地。

風に翻弄されながら着いた崖には、海鳥のコロニーがあった。ウミネコ、カモメ、ウミウ、ヒメウ。ケイマフリはわからなかったかな。それぞれ固まってこの寒風の中、卵を暖めている。双眼鏡でしばし見入る。

すみません、鳥が映るような気合の入ったレンズのカメラはおろか、今回はデジカメも電池切れで、鳥はあまり撮れていない。その後も飛ばされそうになりつつウミウのコロニーへ。
日が暮れてきたところで、急坂あり風ありの細道を歩いて宿へ戻る。計10kmくらい歩いたけど、自転車でなくてむしろよかった。

夕食はいくら丼、ホタテ、エビ、イカ、タコ、鮭、ワカメ、カレイ、毛ガニ、白子と!それはもう!

いくらの弾力と、天売島の採れたてワカメは中でも最高であった。
近所の阪急オ○シスで売ってる、あの半分くらい潰れて汁が出てる悲惨な、でも698円もするいくらとかもうあれ何なんだろうね…


食後は、バードウォッチング第二弾である。我ながらタフである。
赤岩展望台というところに、ウトウという海鳥の大コロニーがあるのだ。その数、60万羽。島の人口は数百人もいるかどうかくらいなのにこの数。杉並区の人口くらいいることになる。みんな深い穴を掘って住んでいる。

そのうち、卵を温めていない方=60*0.5=30万羽が海から大量に帰ってくるのを見に行く。30万羽というと隣の中野区の人口ぐらいですね。
体長30センチ前後の黒い鳥で、首を横に伸ばしながらペタペタと歩く変な奴。ペンギンとウミウを平均したみたいな鳥だ。こんなの初めて見た。

懐中電灯を向けつつ、大量の鳥たちのユーモラスな動きを眺めていたらいつの間にか、寒風の中30分。

さて、明日の船はどうなるのか。「ヨーロッパの春っぽい北海道」を期待して来ちゃった妻の怒りはいつ爆発するのか。
心配もあったものの、宿に戻ってあっという間に、引き込まれるように寝ていた。
(続く)

今週のお題「2013年のゴールデンウィーク