e-bikeを買ってみた

突然だが、この夏、膝の怪我をした。自転車で走っているときに横のファミレスから車が出てきたので、あわてて止まったらアスファルトのヒビにタイヤがハマってそのまま立ちごけ。しかも曲げたままの膝から着地するというひどいコケ方をした。しばらく動けないほどの激痛の後、病院に行って精密検査したところ、左膝の後十字靭帯が伸びて使い物にならないとの診断結果であった。

困った。全然歩けない。タクシーから降りるだけで5分くらいかかる。膝に荷重がかかるときは、骨が支えてくれるから意外といけるのだが、足を浮かせるのが全然だめ。靭帯に、膝以下の重さ数キロがかかると、叫び声をあげてしまうほど痛い。


それから数ヶ月。日常生活にはほとんど問題ないほどに足は回復した。膝はなんだかグラグラしてるけど。たぶん靭帯による固定がなくなったせいなんだろう。一度伸びた靭帯は二度と回復しないらしい。医者は、サラリーマンの後十字靭帯なんて手術で治す必要ないですよ、というスタンスなので、今も膝のグラグラは治ってない。
自転車もビンディングペダル引き足を使いながら走るのは無理かと思ったが、意外と大丈夫である。試しにこの前琵琶湖を半周してみたが、割と余裕であった。あと、出張のときに1日15km歩くことがあったが、ちょっと足がぐらつくだけで大丈夫だった。

しかし、琵琶湖半周できる程度で大丈夫だろうか。気になるのは毎年恒例の北海道ツーリングである。1日100kmを何日も続けているうちに、原野の真ん中で立ち往生しないだろうか…。


そんな事を考えている中、アメリカ出張に行く機会があった。風光明媚なニューハンプシャー州。どこまでも続く森と湖。


その中を走るサイクリストの自転車に最近増えてきたのが、e-bikeであった。まぁ要するに電動アシスト自転車のスポーティーなやつである。ニューハンプシャーのド田舎の自転車屋にも、新型が入荷していた。おお、これなら膝が若干弱くても毎日100km走れるかもしれない。

せっかくだから仕事の合間にレンタルしてみたいと申し出てみたが、
「e-bikeは販売しかできないなぁ。ここから一番近くの自転車屋を紹介するぜ! そこで貸してもらえるかもよ!」と言われ、地図を見ると…50km先。そもそもこの街に公共交通機関はない。ふざけんな、レンタサイクルを借りにきた歩行者が50km先にどうやって行くんだ! と思ったが、アメリカの田舎なので、まぁ車で30分なんだろう。公共交通機関がない街で、車を持ってない人がいるなんて、向こうは毛ほども思ってないだろうね。


そんなわけで、e-bikeに乗りたい気持ちだけを抱えて帰国。西明石に、e-bikeをレンタルできる自転車屋があるということで、行ってみた。
ミヤタの最新型リッジランナー。極太タイヤのMTBに、シマノのSTEPSという電動アシストのシステムがどてっとついている。

借りて走ると、とてもパワフルだ。ウィンウィン唸るモーターが、自転車+乗員+荷物で120kg近くはあろうという荷重をすっと前に出してくれる。試しにそのまま六甲山(表六甲)を登ってみたが、軽々と鼻歌を歌いながら六甲ガーデンテラスにたどり着いてしまった。すごい。神戸大のあたりとか、いつも心拍180くらいで死にそうな顔で登るしかなかったのに。
そして西明石へ尾根沿いを下ってみたが、これも素晴らしい。MTBの油圧ブレーキってこんなに素晴らしいものだったのか。タイヤと合わせて、ものすごい安定感である。時速60km以上出ても、ブレーキを指1本で軽く引くだけで、次のコーナーまでにスピードを落とせる。うーんイイね。これいい。


しかし。だがしかし。平地がとにかく苦痛である。日本の法律では、時速24キロで電動アシストのパワーが0にならないと認めてもらえない。自転車でツーリングしていれば時速24キロぐらいは出るわけだが、そうするとアシストが切れるわけで、これはただのクソ重い自転車なのである。極太のブロックタイヤによる路面抵抗も合わせて、体力が奪われる。マウンテンバイクは文字通り山には最高だが、これ、ロードレーサークロスバイクに乗った友達とツーリングに行ったら、山以外の平地で置いていかれる。奥多摩で言えば、柳沢峠の上りはいいけど、その手前の奥多摩湖畔で置いていかれる。ヤビツ峠で言えば、峠区間はいいけど秦野市内で置いていかれる。そんな感じ。


じゃあどうしようか。ミヤタやYAMAHAクロスバイクタイプは出している。しかしこれはカッコいいとあまり思えない。フレームにどてちーん!とついているバッテリーが、どうしようもなくオカンを想起させる。
そんな中、出てきたのがBESV (ベスビー) JR1だ。こいつは、どう見ても普通のロードレーサーで、バッテリーはフレームに内蔵している。モーターは後輪のインホイールモーターで、BB周りもすっきりしている。そしてデブを載せても峠の下りが安心な105の油圧ディスク。そして白と水色のカッコいい塗装。いいじゃないか。さっそく梅田に試乗に行った。

試乗するとこれは良い。台湾製品なのだが、日本の電動アシスト自転車のようなウィンウィンいうモーター音がしない。後輪のあたりからかすかにインバータのような高周波音が聞こえるだけ。瞬時に時速24kmまで加速したあとは、それが持続するのだ! ホイールも金属の幾分ディープリムなタイプで、スピードに乗ったあとそれが落ちない! これなら、アシストが付いているくせに、付いてない自転車に置いてかれるとかアホなことにはならないだろう。そして、信号からの加速の速さ。パワーメーターがデフォルトでついているのだが、停止状態から踏むと、人力+モーターで630Wとかのパワーが後輪にブチ込まれていることがわかる。750Wで1馬力だから、もうほぼ1馬力といっても良いんじゃね? ローレンツ力が俺様を強烈に加速させる!


で、隣を見るとこの自転車の半額の原付にすごい勢いで抜かされてるんですけどね。ええそうですよ、原付4.5馬力ですよ(重量は違うけど)。ローレンツ力すごいとか思って悦に入ってるのは乗ってる人だけ。でもほら、本人が良ければそれでいいし!


まぁそんなわけで、自転車屋に戻り、即購入しました。試走した感じでは、今まで30分以上かかっていた(弱) 岩間寺の上りが17分とかで登れる感じ。バッテリーは、岩間寺1本で残量が50%になる。ミヤタのほどパワフルではなさそうだが、まぁ、もう1本バッテリーを持っていけばいい話だ。

そして、後輪の軸にバーレーのヒッチメンバーが付く! これは重要だ。ロードレーサーにキャリアをつけてツーリングするのは意外と面倒で、ダボ穴がないといろいろ苦労するのだが、ヒッチメンバーがつけばトレーラーを引けるから、ロングツーリングも大丈夫。子供ももちろん乗せていける。ミヤタのは車軸が極太で、バーレーのヒッチメンバーはもしかしたらつかないかも、という感じであった(最近は3Dプリンターで頑張れば良いのかもしれませんが)。BESVもクイックではないので車軸は太めだが、ネジとナットの噛み合っている長さに余裕もあり、しっかりトレーラーを引けそうである。しかも、電動アシストだから重さはあまり気にしなくていい。これ、災害用のLi-ionバッテリーとインバータがセットになったシステムを積んでおいて、常に予備バッテリーを充電し続ければ、荷物満載で400kmとか無給電で行けるんじゃないだろうか? 計算してないけど。ワクワクが止まりませんね。


日本ではまだそれほど出てないe-bike。
えー電動アシストなんて邪道だ! チートだ! という御仁も多くおられることだろう。しかし考えてみてほしい。そういうレギュレーションがあるイベントならまぁ邪道だろうが、休日のツーリングになんの制限をかけて走っているのか。同じ体力の2人のうち1人が今までのロードレーサー、もう1人がこのe-bikeを使えば、今までのロードレーサーが青息吐息になって1つ目の峠にたどり着いている頃、e-bikeなら2つ目の峠にたどり着いて絶景を見られるかもしれない。今までのロードレーサーが2つ目の峠にたどり着いて力尽きた頃、e-bikeは3つ目の峠にたどり着いて美味しいソフトクリームにありつけているかもしれないぞ?