夏のロマンチック街道ツーリング250km (1)


より大きな地図で ロマンチック街道サイクリング を表示

今回は初・海外ツーリング。仕事以外で海外に行くのなんてはじめてだ。
…というか、新婚旅行なんですけどね。


一週間の日程のうち3日をサイクリングにあてることにして、妻と自転車を持ってヨーロッパへ出かけた。途中、電車が人身事故で遅れて、空港のチェックイン締切1分前まで妻が来ない、という恐怖体験をしたが、どうにかミュンヘンにたどり着いた。ぜはー。


行き先はロマンチック街道とオランダ。果たして大丈夫だろうか?
まずは勾配。いや、あのへんって平地なんでしょ? むしろアルプスを最高点に、だらだら北へ下ってるんじゃないの? とか、その程度の知識しかないのでちと不安。「平地だよー」とかいって色んな人を連れ出したあげく、実は峠も含まれてました的な展開というのがよくありましてですね。それでサイクリング仲間を何人か失ってきた気がするので、…妻まで失うと困りますな。

あとは舗装。ツール・ド・フランスとか見ると街中が石畳というのが多い。これはロードレーサーでなくBD-1にブロックタイヤを履かせていくことで対策。

あとは補給がなさそう、ということ。コンビニ文化ではないらしい。さて、どうなることか。どきどき。


・0日目

ミュンヘンからレンタカーで出発する。定番のノイシュヴァンシュタイン城など経由しつつ田舎道とアウトバーンを疾走すること300km弱、出発地点のドナウヴェルトに到着した。ロマンチック街道というのは南ドイツのフュッセンから、北のヴュルツブルクへと続く道で、車道も自転車道も両方あるのだ。今回はさすがに自転車で全線走破してしまうと、新婚旅行というよりただの修行になってしまう予感がするので、途中のドナウヴェルトからヴュルツブルクへと走ることとする。



ノイシュヴァンシュタイン城遠景。


余談だが、借りたレンタカーはフォード フィエスタ。左ハンドル、マニュアルである。ヨーロッパにおいてはスタンダードである。しかしまぁ、2人+自転車2台+スーツケースを積むとかなり限界。アウトバーンは160 km/hぐらいで流れているので、基本的にアクセルをほぼ床まで踏み抜きながらぶっ飛ばすしかない。130 km/hぐらいだと後ろに車列ができてしまう恐ろしさ。追越車線はBMWとベンツとアウディとポルシェが200オーバーで狂ったように抜いていく。フィエスタも120馬力あるらしいが、まぁ、全くかなわない。なかなか楽しかったが。

・1日目
ドナウヴェルトは、三角形の赤レンガ屋根がとても可愛らしい家が並ぶ、小さな街。名前のとおりドナウ川のほとりにあるのだ。ロマンチック街道添いの街や村は、徹底的にこの家のスタイルが貫かれる。近代的なビルや、新しい外観の家は決してない。きっと条例とかで規制しているのだろう。



教会の尖塔の上には、大きなサギが巨大な巣を作って住んでいた。

ドナウ川自体はそんなに美しくも青くもなかったが、川沿いの道は大変よい雰囲気。


このトンネルが街の出入口。右の戸口を通る。


さて、美しい教会と家々を抜け、街を出ると一瞬で市街地は終わり、それどころか舗装も終わり、フラットダートの旅が始まった。

周囲が開けてくると、雄大な畑がどこまでも続く、北海道のような風景となる。

北海道と違うのは、遥か遠くにいくつか赤レンガの可愛らしい村々が見え隠れするところだろうか。村の真ん中には必ず教会があり、尖塔がその存在を示している。


走っていくと、道を倒木が塞いでいる。

あー…なんかこういうの前もあったな。台風の後の沖縄を走った時だったか。昨日も嵐が一瞬あった。倒木や、たくさんの木の葉や枝が、未だに残っているところを走っていく。ちなみに倒木は、うまいことすり抜けました。


しばらく走り、ハールブルクという小さな街に到着した。数百メートルの範囲に中世バイエルンの雰囲気を残した家が立ち並ぶ。今日はお祭りとのことで、楽団がいた。しかしお祭りということは店など開いてないということでもあり、実際何も買えない。激しい坂沿いに家々があり、それを抜けた瞬間に、また広大な畑の中となった。


次の目的地はネルトリンゲン。城壁に守られた中規模都市である。この辺のサイクリングロードは舗装されており、リンゴなど食べながら平和にだらだらと走る。ここは平和なので、妻からも不満の声は聞かれなかった。むしろ、途中で牧畜されている牛や馬や羊達で喜んでいる。ならばよし。



ネルトリンゲン到着! 着いたのは昼。噴水と大聖堂のあるマルクトプラッツ(英語で言えばMarket Place)が賑わっていた。昼飯はオープンカフェでジャンキーなバーガーを食べる。昨日もありえないほど太いソーセージとか、豚肉と山盛りのポテトのセットとか食べた気がするが。きっとサイクリング程度では罪を滅ぼせないことだろう。

ネルトリンゲンを出ると、一面のジャガイモ畑と麦畑が始まった。

すごい。十勝平野でもここまでの規模ではないのではないかと思われるほど。そのうちに、サイクリングロードを表す看板が変な小道をさしていて、見事に迷う。今回引いてきたGPSルートは車道なのだ(だって細いサイクリングロードのマップとか知らなかったし)。激しいダートに入ってしまったあと、戻って地元のおじいちゃんに聞くと、今度は太いバイパスのような車道を行くよう指示される。あとから調べると、自転車的にはそのどちらでもない普通の舗装道が間にあり、それを行くのが正解だったのだが、当時は知る由もなかった。

バイパスを走っていると、再びサイクリングロードの標識が出てきた。これ幸いと入り、途中の村のオバチャンに確認しつつ先へ進むと…

なんか、砂利ダートの登りになっちゃったんですけど。しかも人家など当然無く、森へと道が入っていく。さっきのオバチャンの言葉がなかったら、私も引き返していたところだ。重い荷物を積んでいることもあり、走っていて辛い。

あっれー?

後ろから恨み言も聞こえてくる。まぁ、そうですよね。しかし、途中の木に看板が付いていたのだ。どうやらこれで正しいようだ。

リスぐらいしか会うもののいない森の中のダートを2人、孤立無援でひた走るしかない。この数kmが一番大変だった。

次の村にどうにかたどり着いたはいいが、今度はロマンチック街道の標識すら見失う。次のチェックポイントであるディンケルスビュールの位置はGPSに入っているので、それを頼りに牧場の間を、馬糞を避けながら行く。たまに踏んでしまっては、蛇行運転してタイヤの汚れを落としたりして。

まぁ、馬は多い。

ディンケルスビュールの手前で野ウサギがいた。短く狩られた草の原に顔を出している。日本ではなかなか見ないよね。

しかし野ウサギが出るというのは夕方になった証拠でもある。ここから、今日の目的地のローテンブルク(・オブ・デア・タウバー)までまだ50kmある。今17時前だ。幸いヨーロッパは日が長く、21時半まで明るい。


ディンケルスビュールは石畳の村だった。


広場にオープンのままランボルギーニを路駐しちゃうのが、ここでのたしなみ。


さて、カフェで妻に調子を尋ねると、ものすごい勢いでケーキを平らげながら「足は大丈夫、コンプレッションタイツも機能してるし。輪行するぐらいなら自走する」と、大変頼もしい様子である。

むしゃむしゃ。

ディンケルスビュールの時点でドナウヴェルトから70 km。ここから50 km走ると、120 kmになってしまう。時間の割に距離が稼げないのはダートのせいだ。大丈夫かなぁ。私はBD-1, 妻はBrompton。どちらも1日に100 kmオーバーを走り続けるにはちと厳しい小径車だ。


というわけで、ここからは車道にする。もしも変な山道や細道に入り込んでるうちに日が暮れたら、どうにもならない。街灯もなければ、夜開いてる店どころか、昼開いてるところすら数十キロごとにしかない。鉄道も半ば廃線状態で、途中のリタイアは不可。細めの車道を選んで、2kmごとぐらいに来る小さな村(自転車でも通過に1,2分というものが大半だ)と、その間の圧倒的に広い田園地帯を、ただ走り続ける。

…とか書くと割と大変そうですが、風景は平和そのもの。


たまーにイベント列車が来るという線路。

ローテンブルクが近づくとアップダウンが増え、最後に小さな峠があった。
「ここがライン川ドナウ川分水嶺」とドイツ語で書いてある。

下り始めると、これが小さい峠では全然なかったことに気づく。下り方向(つまり北海へと下る道)の標高差は大きいのだ。しかもただ一様な下りではなく、たまに登り返す。日が暮れてきた。小雨が降り出した。後ろから怒られる。あー、悪いことしたなぁ。

最後に登った先、タウバー川の渓谷の上に、その街はある。城壁の中の夢のような町、ローテンブルク。美しい。中世風の美しい建物が並び、美味しそうな菓子や雑貨がショーウィンドウを飾る。
…のはいいんですが。街が少し大きいだけに、石畳区間が長い! ホテルはどこだ! もうチェックイン時間が終わってしまう。焦りつつガタガタガタガタと自転車を押すと、坂の途中に今日の宿があった。


100年以上前の建物をそのまま使ったホテルで、ドアや調度品も年代物で雰囲気が良い。


でも、まぁ、そんなものを楽しむ余裕もなく、汗を流してバタッと寝た。明日はヴュルツブルクまで50 km。やめとこうかなぁ。輪行してドナウヴェルトに帰ろうか。